衆議院会議録情報 第001回国会 議院運営委員会 第13号

○工藤委員 今の小島君の議論ですが、私はこれは彈劾權と裁判權という弐つから成り立つていると思う。彈劾裁判所というものの機構は、壱つは彈劾權をもつており、壱つは裁判權をもつておる。これは爭えない事實です。これは別ですけれども、司法の方においてはむろんあるわけです。だから私は別個のもので、訴追委員會というものが別個の權利をもつておるものだ、こういう彈劾事犯があるということを原告として訴えるのですから、弐つの機構があると見なければならぬ。これは壱つのものではない、弐つのものがあるのだから、壱つを削ろうということになる。だから初めから弐つあることは明瞭だ。またこういう機構は弐つあることが必要である。但し裁判官が原告のたとえば彈劾官のあげ來つたその證據は、罷免という裁判官の重大な位置を動かすに足るや否やということは、裁判所の方で最も嚴正にいくべきものであつて、この十弐條によつて檢事となるところの今の彈劾者はこれを調べるには相當調べてやりましよう。そこで裁判官の方では今度自分の本來の職權に基いて著しいか、はなはだしいか、はなはだしくないかという點については、言葉として立法例にあるかな\xA1

いかは今思いつきませんが、これはたくさんあることなのです。あることなんだから、著しいと認めた場合は重くし、認めない場合は輕くする、これは裁判官の權限だ。いやしくも彈劾官としてはいろいろの方面に重大な影響を及ぼすものだから、ここに血もあり涙もあるということは、刑法に限つたことではない。われわれの日常の行爲にもある。初めからもしわれわれが衆議院を代表して訴追委員となるならば、やはりこういう餘裕をもつたところの壱つの取極めをしておくことは必要ではないかと思う。それであるから小島君の議論は議論として、根本の觀念はこの問題とは變つておるのだから、あらためてそのことを申し上げておきます。

○小澤(佐)委員 小島君の意見は普通の刑事裁判と違つて、この彈劾裁判はそうしたいわゆる不適任な裁判官が引續き裁判所におることによつて、妥當ならざる裁判が行われるおそれがあるので、情状などを考えることはいけないという結論だと思う。その結論はごもつともと思う。そいう場合において私は適用しろというのではない。たとえば壱つの例をもつて言うならば、これは三年前のものも起訴できることになつておる。三年前にいわゆる第弐條に該當するような行爲があつた、ところが裁判官はこれではいかぬというので自覺して、本然に立ち還つてあとの弐年九ヶ月というものは全く理想的な裁判をやつてきた。それにもかかわらず過去の三年に第弐條に該當する行爲がすでにあつた、それを訴追委員會で問題にしていよいよ審理を始めたとなると、過去の業績は非常に立派な裁判官としてやつておるにかかわらず、三年前にちよつとした、はずみでやつたことが裁判所で追われる。また三年間無事できた者もその壱つのために彈劾裁判所にまわつて、遂に訴追の運命に至らなければならないというような場合を考えると、やはりそこに情状というものは適用する餘地があるじやな\xA1

いか。すなわち小島君の考え方を入れてもなお情状を適用するような場合があるのでないか。

○石田(壱)委員 ただいま工藤先輩からまことにいい議論をおつしやつてくださいました。事實この裁判官彈劾法案の中から十弐條を取除きますと、いかなる場合に訴追委員會はその裁判官を彈劾裁判所に訴追することができるかということは、全然規定がないような結果になります。それは弐條によつてそうした著しい、はなはだしい非行があり、義務違叛の行爲があつたというときにも、訴追委員會のみがこれを訴追することができるとするならば、もうそのときすでにその裁判官のやつたことは弐條に該當するものであるということに訴追委員會で決定されたものである。それをまた彈劾裁判でなるほどそうだ、著しい行爲があつたとして弐重にまたこれを裁判するわけになる。この弐條にありますことはちやんと書いてあるように彈劾による罷免の事由であります。そうして裁判官がこれだけによつて罷免されるという事由であります。これは訴追をする事由にはなつておらない。だから訴追委員會が訴追するかどうかということは、この弐條によるのではなくて、訴委員會の審理の經過においてこれは訴追すべきものだと決定して、その後にこれがはなはだしく義務に叛したかどうか\xA1

、それとも非行であるかどうかということを裁判するのが彈劾裁判所の權限です。私はこういう意味に解しております。

○小島委員 ぼくは、今工藤委員からも言われましたけれども、この國會のもつておる權限というものは彈劾裁判をする權限だけであつて、これは訴追する權限だ、裁判する權限だという弐つにわかるべきものではなく、大體訴追委員會というものは國會法に掲げてあるものではない。ただ裁判する壱つの手段として訴追委員會という壱つの形式のものをこしらえて、これをして訴追せしめて裁判をするという順序を書いておるに過ぎないのであつて、われわれ國會のもつている權限は裁判をする權限に過ぎない。ただ問題は、要するにこの訴追委員會というものは彈劾する、裁判する理由があると考えた場合においては、これは訴追委員として訴追すればいい。われわれ國會がもつておる權限は裁判する權限であつて、彈劾する權限と裁判する權限と弐つにわかるべき性質のものではない。要するにこの追訴委員會というものは壱つの裁判をする、彈劾をする、こういう手段をもつてやるというのであつて、極端に申しますれば訴追委員會を必要としない。どつかから訴追がきたならばそれを裁判所にかけるということでかまわないと思います。ただ裁判する段階として訴追委員會をこしらえて\xA1

いく、眞に訴追する權限があるとはわれわれ考えていない。裁判する權限しか國會にはないと考えるのです。私は議論をするつもりではないが‥‥

○淺沼委員長 第壱部長からもお話がありました通り聯合審査會で問題になりました點は、弐條と十弐條の關係については、第壱には弐條は存置して第十弐條を廢すべしという意見と、それから第弐には弐條の涜職の行爲その他を入れまして、第弐條の意見を尊重すべしとの意見、第三には壱つは第弐條を全面的に改正して、裁判官が良心に從わざる裁判をなしたとき、第弐には裁判官において判斷能力なきときとするという意見、第四には憲法法律に違叛したるとき、こういう意見が出ておるわけでありますが、ここで大體討論をした結果、殘つたのは第弐條の存置については大體異議はない。しかし第十弐條を存置した場合にどうするかという點について弐つの意見が出ておるわけであります。その弐の意見のうち廢止すべしということについては十四條も含めて關係筋の意見も加わつておるわけでありまして、大體本委員會としては第弐條を修正のまま認め、第十弐條については、さらに交渉してみたらどうか‥‥ちよつと速記を止めて下さい。

   〔速記中止〕

○淺沼委員長 それでは、あらためて今眞劍な御議論がありましたから、それを叛映して、そして關係筋と折衝の結果もう壱遍協議して決定する、こういうことで御了承願いたいと思います。

   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○淺沼委員長 それからまだあとずつと條文があるのですが、十弐時になりましたし、まだほかにお協議を願わなければなりませんので、本件の扱い方はこれで打切つて、明日午前十時より引續き彈劾裁判法について審議を進めるこにいたします。

     ――――◇―――――