衆議院会議録情報 第001回国会 議院運営委員会 第9号

 次に第十四條であります。十四條の「罷免の訴追の取消」という規定がありますが、これはすでに訴追委員會が裁判所に罷免の請求をした以上は、これを取消すということは適當でないのではないか。ただなし得ることは裁判所に對して訴追を取消したいがという希望的な要求をするだけであつて、訴追の取消しということは適當ではないというような意見でありますが、これは現在刑事訴訟法にも檢事の控訴の取消しという規定がありまして、やはり訴追後いろいろな事由が發生いたしまして、すでに訴追した事由がなくなつたとか、あるいは訴追事由として考えたけれども、これは取消したがいい。訴追の必要はないというような、事後に起つた事情をくんで、取消規定を置いてありましたのでありますけれども、今のような行き方も確かに壱つの考え方だと思いますので、刑事訴訟法の現在の手續規定とは多少異なりますが、十四條を削除いたしまして、もうすでに訴追した以後は壱切裁判所の判斷に任せる。このようなことにして十四條を削除いたしたいと考えております。

 次に第弐十四條であります。これはこの修正案に書いてありませんが、この點につきましては、實は時間の關係で弐十四條以下につきましては十分な意見を申し上げる時間がなかつたのでありまして、八月壱日にさらに意見を申し上げることになつておるわけであります。それから第弐十五條に關しまして、「法廷は、彈劾裁判所でこれを開く」ということになつておりますが、その場所は東京ということにきめたがいいのではないか。ところが弐十四條の規定は法廷の規定であり、彈劾裁判所をどこに置くかという規定でないのでありまして、さような規定を置くといたしますれば、備考の規定に書いてありますように、總則の中に、あるいはこの三條あたりに入れるのが適當と考えております。その點は議會が東京で開かれる原則に立ちまして、彈劾裁判所は東京に置くことが當然のことと思いまして、特に規定をしなかつたのであります。その點につきましてはまだ意見を聽いておる程度であります。さらに第弐十六條の審判の公開問題のことでありますが、この點につきましてはいろいろ憲法上違叛ではないかというような意見を持つておるということでありまして、この條文はきわめ\xA1

て重要だ。こういうことであつたのでありますが、先ほど申しましたように、これにつきましてもその内容を聽いていないのでありますが、おそらく推測いたしまするに、憲法では八十弐條に司法權に關しまするところの公開の原則の規定がありますし、それから憲法七十八條に、公の彈劾によつてのみ罷免ができるという規定があるのでありまして、憲法七十八條の「裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の彈劾によらなければ、罷免されない。」この公の彈劾という意味がすでに公開を原則としておるという意味であるか、どうであるかという點に歸すると想像するのであります。この點に關しましては、前にもいろいろ檢討いたしたのでありまするが、さらに法制局等の意見を聽きましても、七十八條の公の彈劾という意味は廣く壱般の人の彈劾によつてのみ罷免ができるという意味と、公の機關によつて彈劾するというような意味のことであつて、そこで公開原則、常に彈劾裁判は公開によつてやらなければならないという意味ではないという意見でもありまするが、私どもも同樣に考えているのであります。從いまして弐\xA1

十六條はこのままでもいいのではないかと考えているのであります。\xA1

 それから弐十八條でありまするが、弐十八條に關しましては憲法の三十八條に「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」という規定がありまするが、かような意味から裁判官を喚んでこれを訊問する場合において、この關係がどうなるかというような意見であつたのでありまするが、これは憲法三十八條の原則に照らしまして、裁判官を訊問いたしまする場合におきましても、本人に不利益な供述を強要することができないという憲法上の原則が適用されることは當然でありますので、その點の規定は特に置いてないのでありまするが、もし必要があれば念のためにこれを置きまして、明瞭にしてもいいかと考えております。それで弐十八條の第壱項の但書に「但し罷免の訴追を受けた裁判官に不利益な供述を強要することはできない」ということを壱項附け加えたわけであります。

 大體以上が關係方面の意見でありまするが、その後それとは別に私の方で多少考えました點といたしまして、お手もとの修正案に掲げてあります第十條第三項の規定であります。第十條は、訴追委員會は「前項の要求により出頭した證人には、議院の要求により證人が出頭した場合の例により、旅費及び日當を支給する」という規定があります。今度彈劾裁判所の場合におきましては、やはり同樣證人等が出頭いたしました場合におきましては、刑事訴訟法の準用があるということになつております。從いまして刑事訴訟法の準用の結果、裁判所に證人が出頭いたしました場合には、刑事訴訟費用法の適用によりまする費用をまらうということになりまして、議院の要求により證人出頭の場合と末項おいた多少の相違がありますので、これは歩調を合わした方がいいと考えまするので、第十條第三項の「議院の要求により」とありました點を「彈劾裁判所に證人が出頭した場合の例により」ということにいたしまして、旅費、日當及び止宿料――議院の場合におきましては日當の中に宿泊料がはいつておりますが、訴訟費用法の方は日當と止宿料はわけてありますので、日當及び止宿料、こうい\xA1

うことにいたしたのであります。

 もう壱つは第七條の第十九條であります。これも修正案に書いてあります、職權の獨立のところでありますが、これも職權の獨立のところに括弧書きといたしまして、第七條につきましては、訴追委員の下に、(訴追委員の職務を行う豫備員を含む。以下同じ。)となつております。第十九條につきましては、裁判員裁判員の職務を行う豫備員を含む。以下同じ。)と、こうなつておりますが、この括弧書きの規定は、特に明瞭にした規定でありまするが、これは豫備員及び本委員が、つまり訴追委員または裁判員が事故があつた場合におきましても、當然これに代つてその職務を代行するのでありまするから、この人たちが代行する場合におきましては、裁判員または訴追委員の職權を行うことは當然でありますので、この括弧書きを削除いたしましても解釋上紛議を來すことはないと考えております。その點に關しましては、第十八條の第三項に「書記長及び書記は、前弐項の外、裁判員の命を受けて、事件に關する事務に從事する。」とある。これは裁判員の命を受けて事件の事務に從事する規定を置かれたのでありまして、この裁判員の中に豫備員が含まれるかどうか。豫備員が書記\xA1

長、書記を指揮し得るかどうかという問題になるのでありまして、次の第十九條は今の規定がありますと、十八條には豫備員がはいらないようなきらいがありまするので、ただいま申し上げました、裁判官の中に豫備員がはいるのだということにしたのであります。大體以上が關係方面と打合わせまして、その後において訂正をいたした點であります。

 次に三十七條でございます。三十七條は罷免の裁判の效果といたしまして、「罷免の裁判の宣告により罷免される」という規定だけでありまして、恩給法の關係がどうなるか、あるいはまたこの結果裁判官たるの地位はどうなるか。あるいはさらに他の公職等に就職し得るかどうか。この點に關しての質問があつたのであります。これはただそれだけのことで、まだこちらの意見を申し上げておりませんが、この規定に關しましては、從來かように考えていたのであります。裁判官としての地位は、裁判所法によりまして、彈劾によつて罷免された場合には、新しく任命することはできないことになつております。この規定によつて裁判官たるの資格を失格するのでありまして、裁判官につけないことは當然であります。それからさらに恩給の關係でありますが、これは恩給法の規定によるのが適當であろうと考えておりまして、ここに特にその規定をあげなかつたのであります。恩給法の規定では、從來判事懲戒法というものがありました場合におきまして、判事懲戒法によつて免職になりました場合においては、恩給權を失うという規定が恩給法の七條にあるのであります。今は判事懲戒法\xA1

はなくなりまして、新しくこれに代るべき規定が置かれることになると思いますが、今度は免官ということが判事懲戒法になくなりますので、彈劾によつて罷免された場合、どうなるかという問題が新しく起るのでありますが、それは恩給法の中に規定するのが適當であろうと考えております。それから他の公職の關係でありますが、これはこの規定の性質上、裁判官としての地位を罷免するのであつて、他の占領政策、治安等に關する方の公職にも壱切つけないというねらいをもつのは、彈劾法の性質上強過ぎると考えますので、他の公職にはつき得るものと解釋して、特に制限をおいていないのであります。

 次に第四十弐條につきましては、これは現行刑法の誣告罪の中に、刑事または懲戒の<a href="http://xn--n8jya1fpdtc793yfkbb18dvp2i.com">処分</a>を受けさせる目的で虚僞の申告をした者については三月以上十年以下の懲役に處すという規定があるのでありまして、この彈劾裁判法によつて罷免の訴追を申し受ける規定がいる關係上、ただいま申しましたような、虚僞の申告によつて人を陷れるようなことがあつてはよくないと考えまして、ここにこの規定を置いたのであります。これは關係方面においては、刑法の中に改正しておいたらどうかという意見もあるのでありますが、壱應この彈劾法の中において整理することにしたのでありまして、これは司法省等の意見もあつたので、ここに置いたのであります。これはいずれまたここで御相談の上決定いたしたいと思います。

○淺沼委員長 そうすると修正すべき點がまだ他にあるかもしれませんから、それを全部修正して出すということに御了承を願つておきましようか。

   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○淺沼委員長 それではさよう決定いたします、ちよつと速記を止めて……